前回の記事で、原油100ドルが中小企業のコストをどう押し上げるかを「4つのルート」で可視化しました。
そのルート④──「原油高→ドル需要増→円安→全輸入品値上げ」。
実は、これが今いちばん怖い。
なぜか。原油だけなら、節約できる。電気代なら、LED化や契約見直しで多少は抑えられる。でも円安は、すべての輸入品に同時にかかる「見えない関税」です。原材料も、機械部品も、クラウドサービスの月額料金も──ドル建ての支払いは全部、自動的に高くなる。
しかも今回の円安は、戦争が終わっても簡単には戻らない構造を持っています。
今日は、ドル円159円の「中身」を分解します。
ドル円159円── いま何が起きているのか
2026年3月18日時点で、ドル円は159.44円。年初来高値の159.74円(3月14日)に再接近しています。
わずか3週間で4円の円安。たった4円? ──いいえ。売上1億円の会社が年間2,000万円分の輸入をしていたら、この4円で約52万円のコスト増です。何もしていないのに。
なぜ円安が止まらないのか── 3つのエンジン
今回の円安には、3つのエンジンが同時に回っています。しかも厄介なことに、どれか1つが止まっても他の2つが回り続ける構造です。
つまり、今回の円安は「戦争だけが原因」ではありません。戦争が、もともと進んでいた構造的円安にガソリンを注いだ。だから止まらない。
1円の円安で、あなたの会社はいくら損するか
円安の怖さは、原油のように「ウチは関係ない」と言えないことです。あなたの会社が直接輸入していなくても、仕入先が輸入していれば、その分は回り回ってあなたに来ます。
| 業種 | 年間輸入関連支出 | 1円の円安で | 10円の円安で | 影響の出方 |
|---|---|---|---|---|
| 製造業(従業員30人) | 3,000万円 | +20万円 | +200万円 | 部品・素材の仕入れ値上昇 |
| 飲食業(5店舗) | 1,500万円 | +10万円 | +100万円 | 食材(小麦・肉・油)値上げ |
| アパレル(年商1億) | 5,000万円 | +33万円 | +330万円 | 中国・ベトナムからの仕入 |
| IT企業(20人) | 800万円 | +5万円 | +53万円 | AWS・Azure・SaaS月額 |
| 建設業(年商3億) | 8,000万円 | +53万円 | +530万円 | 鉄鋼・木材・設備機器 |
2025年末の153円から現在の159円まで、6円の円安。上の表の「1円」を6倍にしてみてください。製造業なら120万円、建設業なら318万円が、すでに「蒸発」しています。
気づいていますか?── 5つの「見えない円安コスト」
直接輸入していなくても、円安はこんなところに効いています。
160円の攻防── 政府・日銀は動くのか
市場の視線は、「160円」に集中しています。
しかし、日経新聞は「160円目前も介入警戒高まらず」と報じています。なぜか。
今回の円安は、投機的な「急激な変動」ではなく、原油高というファンダメンタルズに基づく「じわじわ型」だから。為替介入は「過度な変動」に対して行うものであり、実需に基づく動きには介入しにくい。
政府が介入しても、円安の根本原因(日米金利差+原油高)が解消しない限り、効果は一時的です。2024年の介入でも、円は一時5円ほど戻しましたが、1ヶ月で元の水準に戻りました。介入は「時間稼ぎ」であって「解決策」ではありません。
「耐える」から「活かす」へ── 中小企業の円安サバイバル術
円安を嘆いても為替は変わりません。今日からできる具体策を5つ。
この円安、いつまで続くのか
正直に言います。すぐには終わりません。
| 機関 | 2026年末予想 | 前提条件 |
|---|---|---|
| 三井住友DS AM | 150円 | 米利下げ進行でドル安方向 |
| 大和AM | 146円 | 日米実質金利差の縮小 |
| マネックス証券 | 130〜165円 | レンジ予想(幅広い不確実性) |
| 朝倉慶氏 | 170円 | 円安×インフレ加速シナリオ |
楽観的に見れば年末に150円前後。悲観的に見れば170円。
どちらにしても、「来月には140円台に戻る」という期待は持たないほうがいい。少なくとも半年〜1年は150円以上の円安環境が続くと想定して、経営を組み立てるべきです。
みずほ銀行の唐鎌大輔氏は、「ドル安と円安が同時進行する」という異例の事態を指摘しています。通常、ドルが弱くなれば円は強くなる。しかし2026年は、ドルも売られ、円も売られ、行き場を失ったマネーはユーロやスイスフランに向かっている。つまり、円は「世界で最も弱い通貨のひとつ」になりつつあるのかもしれません。
まとめ
円安は「為替トレーダーの話」ではありません。あなたの会社の利益を、毎日じわじわ削り取っている「見えない税金」です。
① 3つのエンジンが同時に回っている──原油高、日米金利差、有事のドル買い。1つ止まっても他が回る。
② 為替介入は「時間稼ぎ」であって「解決策」ではない──根本原因が変わらない限り、円安は続く。
③ 嘆くより先に、ドル建て支出の棚卸しと価格転嫁を──今日できることから始めれば、半年後の景色が変わる。
次回・第4回は「『遠くの戦争は買い』が通じない時代」をお届けします。イラン情勢が日本の株式市場に何をもたらしているのか──日経平均、TOPIX、そして個別銘柄の動きを、中小企業の社長の視点で読み解きます。
データ出典:
Bloomberg、日本経済新聞、中小企業庁、みずほリサーチ&テクノロジーズ、三井住友DSアセットマネジメント、大和アセットマネジメント、日本総合研究所、時事通信
※為替レートは2026年3月18日時点。各社予想は2026年3月時点で公表されたもの。業種別試算は一般的なモデルケースであり、個々の企業の状況により異なります。
作成: Seeds Brains(ジェイノーム業務支援AI)