前回の記事で、ホルムズ海峡の封鎖が世界経済に与える衝撃をお伝えしました。
「原油価格が上がっている」「日経平均が暴落した」──ニュースでは毎日そう報じられています。
でも、「それが自分の会社にいくらの影響があるのか」を具体的に答えられる経営者は、実はほとんどいません。
今回は、原油価格の上昇がどのルートで、どのくらいの金額であなたの会社のコストを押し上げるのかを「見える化」します。記事を読み終えた頃には、自社の”原油感応度”がわかるはずです。
原油価格の現在地
2026年3月13日時点で、WTI原油先物は99.31ドル。「100ドルの壁」に再び迫っています。
3月8日に一時110ドルを突破した後、急落して95ドル台まで下がりました。しかし、ホルムズ海峡の緊張が続く中、再び上昇に転じています。
問題は、この水準が「一時的な急騰」なのか「新しい常態」なのかです。2008年のリーマンショック前夜(原油147ドル)、2022年のロシア・ウクライナ侵攻時(原油130ドル)──いずれも100ドル超が数ヶ月続きました。
そして、100ドルが続くと何が起きるか。それはじわじわと、しかし確実に、あなたの会社の損益計算書に表れます。
コスト波及の4つのルート
「原油が上がった」と「うちの利益が減った」の間には、4つのルートがあります。
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ガソリン・軽油
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トラック配送料
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あなたの仕入れ値↑
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LNG価格連動
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電力会社の燃料費
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あなたの電気代↑
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ナフサ
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プラスチック・紙・インク
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あなたの資材費↑
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ドル需要増
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円安(1ドル=159円)
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輸入品すべて↑
この4つのルートが同時に押し寄せるのが、原油100ドル時代の怖さです。燃料費だけ見ていても全体像は掴めません。
業種別インパクト ── 3つの会社で試算する
「うちの業種だとどうなの?」──それが一番知りたいところでしょう。代表的な3業種で、原油価格別のコストインパクトを試算しました。
| 項目 | 原油$72 (攻撃前) |
原油$100 (現在) |
原油$140 (悲観) |
|---|---|---|---|
| 軽油単価(税込) | 145円/L | 175円/L | 215円/L |
| 月間燃料費 | 145万円 | 175万円 | 215万円 |
| 攻撃前との差額 | ── | +30万円/月 | +70万円/月 |
| 年間増加額 | ── | +360万円 | +840万円 |
| 項目 | 原油$72 | 原油$100 | 原油$140 |
|---|---|---|---|
| 月間光熱費 | 28万円 | 34万円 | 40万円 |
| 月間食材費 | 112万円 | 121万円 | 134万円 |
| コスト増合計 | ── | +15万円/月 | +34万円/月 |
| 年間増加額 | ── | +180万円 | +408万円 |
| 項目 | 原油$72 | 原油$100 | 原油$140 |
|---|---|---|---|
| 月間資材費(紙・インク) | 320万円 | 355万円 | 400万円 |
| 月間電気代 | 18万円 | 22万円 | 26万円 |
| コスト増合計 | ── | +39万円/月 | +88万円/月 |
| 年間増加額 | ── | +468万円 | +1,056万円 |
たとえば、年間売上1億円・利益率5%の会社があるとします。利益は500万円、コスト(原価+経費)は9,500万円です。
| 項目 | 原油高前 | コスト10%増 |
|---|---|---|
| 売上 | 1億円 | 1億円(変わらず) |
| コスト | 9,500万円 | 1億450万円 |
| 利益 | 500万円 | ▲450万円(赤字) |
この会社の場合、コストが10%上がると利益500万円が消えるだけでなく、450万円の赤字に転落します。もちろん、売上規模やコスト構造は会社ごとに異なりますが、利益率が低い会社ほど、原油高の影響は深刻になる──これは共通して言えることです。
“見えないコスト”の正体
ガソリン代、電気代、食材費──これらは請求書を見ればわかる「見えるコスト」です。
しかし原油高の本当の怖さは、数字として見えにくいコストにあります。
これらの「見えないコスト」は、原油価格が上がってから3〜6ヶ月遅れで効いてきます。今は「まだ大丈夫」と感じていても、夏頃には一気に表面化する可能性があります。
歴史は繰り返す ── 2008年と2022年の教訓
原油が100ドルを超えた過去のケースから、何が学べるでしょうか。
リーマンショック直前の2008年7月、WTI原油は史上最高値147ドルを記録。ガソリンはリッター185円に達し、運送業を中心に中小企業の倒産が相次ぎました。
東京商工リサーチによると、2008年の「原油高関連倒産」は年間762件。前年比3.2倍に急増しました。
その後:リーマンショックによる需要減で原油は30ドル台まで急落。「原油高→景気後退→需要減→原油暴落」というサイクルを描きました。
2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻で原油は130ドルに急騰。日本政府はガソリン補助金(燃料油価格激変緩和対策事業)を発動し、リッター175円に抑制しました。
この補助金がなければ、ガソリン価格はリッター210円超になっていたと試算されています。
その後:補助金は総額6兆円超を投じ、2024年末まで延長。原油は80ドル前後に落ち着きました。
2008年は投機的な価格高騰、2022年はロシアからの供給制限──いずれも代替ルートがありました。
しかし今回は、ホルムズ海峡という「世界石油の心臓部」そのものが止まっています。日本の原油輸入の65%が通過するこの海峡には、代替ルートがほぼ存在しません。石油備蓄254日分が尽きる前に事態が収束しなければ、過去のどのケースより深刻な影響が出る可能性があります。
自社の「原油感応度」── 5つのセルフチェック
あなたの会社は、原油価格の上昇にどのくらい影響を受けるか。以下の5項目でチェックしてみてください。
円安がさらにコストを押し上げるメカニズムをお伝えします。
まとめ
原油価格は「中東のニュース」ではありません。あなたの会社の損益計算書に、今この瞬間も影響し続けています。
今回お伝えしたかったのは3つです。
① コストは4つのルートで波及する──燃料、電気、資材、円安。同時に来る。
② 利益率5%の会社はコスト10%増で赤字転落もありうる──「まだ大丈夫」は危険信号。
③ 今回は過去の原油高と違う──ホルムズ海峡の封鎖は代替ルートがない。
次回・第3回は「円安が止まらない ── 為替と中小企業の攻防」をお届けします。ルート④で触れた「円安」を深掘りし、ドル円159円台が中小企業にどう響くかを解説します。
データ出典:
Bloomberg、日本経済新聞、IEA(国際エネルギー機関)、経済産業省 資源エネルギー庁、東京商工リサーチ、日本総合研究所
※数値は2026年3月13日時点。業種別試算は一般的なモデルケースであり、個々の企業の状況により異なります。
作成: Seeds Brains(ジェイノーム業務支援AI)