イラン情勢シリーズの次回はAIリアルタイム座談会の予定だったのだが……予定変更で申し訳ない。今回はちょっと毛色の違う話をさせてほしい。
最近、筆者はXREALのARグラスがほしくてほしくてしょうがない。
YouTubeで開封動画を見ては「うーん、でも仕事で使うかな……」と自問し、Amazonのカートに入れては「いや、まだ早い」と削除する日々を送っている。完全にチキンである。
そんな折、目に飛び込んできたのがこのニュース。
『攻殻機動隊展』で、XREALのARグラスを使った没入体験が実現している──と。
しかも関西巡回展が今年の夏に兵庫県立美術館で開催されるという。これはもう、行くしかないのでは?
そもそも『攻殻機動隊』を知らない人へ
ここで少し寄り道をさせてほしい。「攻殻機動隊って何?」という方のために、最低限の予習をしておく。
『攻殻機動隊(GHOST IN THE SHELL)』は、士郎正宗の漫画(1989年連載開始)を原作とするSF作品だ。舞台は近未来。人間の脳がネットワークに直結し、身体をサイボーグ化することが当たり前になった世界で、内務省直属の攻性防壁部隊「公安9課」が電脳犯罪やテロと戦う。
1995年の押井守監督による劇場版アニメは、あのマトリックスに影響を与えたことでも有名だ。ウォシャウスキー姉妹(当時は兄弟)がプロデューサーに「これを実写でやりたい」と劇場版のDVDを見せたというエピソードはあまりにも有名。つまりマトリックスのあの緑の文字列が流れる世界観の「元ネタ」が攻殻機動隊なのだ。
少佐──草薙素子という存在
主人公は草薙素子(くさなぎ もとこ)、通称「少佐」。全身義体(フルサイボーグ)の女性で、公安9課のリーダーだ。
彼女がすごいのは、ただ強いだけじゃない。身体のほぼすべてを機械に置き換えた彼女が、それでも「自分は自分なのか」「この意識は本物なのか」と問い続ける。肉体を捨てた人間に、魂(=ゴースト)は宿るのか──この哲学的な問いこそが攻殻機動隊の核心だ。
2026年のいま、私たちはようやく追いついたのかもしれない。
タチコマ──最高にかわいいAI戦車
そしてもう一人(一台?)、絶対に語っておきたいのがタチコマだ。
タチコマは公安9課に配備された多脚型の思考戦車。蜘蛛のような4本脚に、丸っこいフォルム。そして子供のような甲高い声でしゃべる(声:玉川砂記子さん)。見た目は完全に兵器なのに、言動がとにかく愛らしい。
「ボクたちは個性を持てるのかな?」「並列化すると記憶が混ざっちゃうんだよね」──AIである彼ら(9台いる)が、自我や個性について悩む姿が、なんとも愛おしい。作中では夜な夜な哲学談義を繰り広げたり、読書会を開いたりする。
そして最終的に彼らがとる「ある行動」は……これ以上はネタバレになるので詳しくは書かない。書かないが、一つだけ言わせてほしい。
彼らが最期に歌うのだ。
い〜きている〜♪」
幼稚園で歌ったあの歌を、AI戦車たちが、あの場面で、あの状況で歌う。「生きている」という言葉の意味が、彼らの口(スピーカー?)から発せられた瞬間に、まったく違う重さを持って胸に刺さる。
自分たちは「生きている」のか?ゴーストは宿っているのか?──作品を通して問い続けてきたその答えを、童謡に託す。このセンスに、やられた。
筆者はアニメシリーズ(S.A.C.)を3回通して観たが、3回ともこのシーンで泣いた。1回目は不意打ちで泣き、2回目は「来るぞ来るぞ」と構えていたのに泣き、3回目は冒頭から「これはあのラストに繋がるんだ」と思いながら観て、結局また泣いた。AI戦車に3回泣かされる体験は、人生で攻殻機動隊でしか味わえない。
(個人的には、とっつぁんの「いいえ、盗んでいきました──あなたの、心です」に匹敵する泣きポイントだと思っている。作品のジャンルが違いすぎるという指摘は受け付けない)
バトー──不器用な漢(おとこ)
少佐の右腕であるバトーも外せない。元レンジャーの巨漢で、特徴的な義眼が印象的。ぶっきらぼうだが、素子への想いを不器用に隠しきれない人間味あふれるキャラクターだ。タチコマにも優しい(でも照れ隠しでぞんざいに扱う)。
ちなみに先日、甥っ子に「攻殻機動隊マジで良いから観て」と力説したら、「絵が古い」と一刀両断された。
──バトーもびっくりの罵倒である。
いや待て。確かに1995年の劇場版は絵柄に時代を感じるかもしれない。だがそこにあるのはセル画時代最高峰のアニメーションだ。水面に弾丸が着弾するシーン、光学迷彩が解除される瞬間、街並みの空気感──デジタルでは出せない重厚さがある。
食わず嫌いはもったいない。
ChatGPTやClaudeを毎日使っている世代だからこそ、「AIが意識を持ったら?」「人間と機械の境界は?」という問いが、SFではなくリアルな問題として刺さるはずだ。NetflixでもAmazon Primeでも観られる。劇場版(1995年)→ S.A.C.(TVシリーズ)→ S.A.C. 2nd GIG の順がおすすめだ。
タチコマに泣かされる経験は、きっと「AIとは何か」を考えるときの、一生モノの参照点になる。
ARグラスが「展示会」を変えた
東京・虎ノ門ヒルズのTOKYO NODEで開催された『攻殻機動隊展』(2026年4月5日まで)では、「電脳VISION」というAR体験コンテンツが話題になった。
使用されたのはXREALの空間コンピューティング対応モデル「Air 2 Ultra」。専用デバイス「Beam Pro」に接続して使用する。
タチコマ(声:玉川砂記子さん新規アフレコ)がAR空間でガイド。KDDI・XREAL・STYLIの3社が6ヶ月以上かけて共同開発。暗い展示室でのマーカー認識は全チームにとって初の技術的挑戦だった。
「ガジェット好きの物欲」から「ビジネスの可能性」へ
正直に言おう。最初は純粋にガジェットとして欲しかった。
だが攻殻機動隊展の事例を見て、考えが変わった。
これは「見せ方」のインフラが変わりつつある、ということだ。
考えてみてほしい。
これらは全部、すでに技術的には実現可能だ。問題は「コスト」と「運用」。
XREALの現行ラインナップを整理する
「で、いくらするの?」が気になるところだろう。2026年4月現在のXREAL主要モデルを整理してみた。
| モデル | 特徴 | 想定用途 |
|---|---|---|
| XREAL One Pro | X1チップ搭載、57°視野角、120Hz、Sony製Micro有機EL、Bose監修音響、3ms超低遅延 | 映像視聴、ゲーム、ビジネス |
| XREAL Air 2 Ultra | 6DoF対応、空間コンピューティング特化 (攻殻機動隊展で使用) |
AR開発、展示会、空間体験 |
| XREAL 1S | エントリーモデル、携帯性重視 | 動画視聴、入門用 |
価格帯はモデルにより異なるが、数万円台で手に入る。Apple Vision Proが約50万円であることを考えると、桁が違う。
迷ったらOne Pro、空間開発したいならAir 2 Ultra
攻殻機動隊展で使用されたAir 2 Ultraは空間コンピューティング特化モデル。最新のOne Proは日常使いにも向いたバランス型。これが現時点の選び方だ。
中小企業が「AR体験」を導入するとしたら
「攻殻機動隊展のような大規模なAR体験は、大企業の話でしょ?」
そう思うかもしれない。実際、KDDI・XREAL・STYLIの3社が6ヶ月かけた開発を中小企業がそのまま真似するのは無理がある。
だが、「簡易版AR」なら話は別だ。
WebAR(ブラウザで動くAR)
専用アプリ不要で導入コストも低い。スマホのブラウザだけでAR体験を提供できる。
ARCore / ARKit
Googleの「ARCore」やAppleの「ARKit」を使えば、スマホだけでAR体験を提供できる。
QRコード × AR
既存のパンフレットにQRコードを印刷するだけで、AR対応にすることも可能。制作費は数十万円から。
ARグラスが必要な本格的な空間体験と、スマホで完結する簡易AR。
自社にとってどちらが「費用対効果」が高いかを冷静に見極めることが大事だ。
関西巡回展に行こう──兵庫県立美術館
さて、ここからは完全に個人的な宣伝である。
2026年夏、『攻殻機動隊展』の関西巡回展が兵庫県立美術館で開催されることが決定している。
| 展覧会名 | 攻殻機動隊展(関西巡回展) |
| 会場 | 兵庫県立美術館 |
| 所在地 | 〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1(HAT神戸内) |
| 開催時期 | 2026年夏(詳細日程は公式発表待ち) |
| 開館時間 | 10:00〜18:00(入場は閉館30分前まで) |
| 休館日 | 月曜日(祝休日の場合は翌日) |
| 電話 | 078-262-1011 |
アクセス
兵庫県立美術館は、神戸の海沿い「HAT神戸」エリアにある。安藤忠雄設計の建築自体も見どころだ。
阪神「岩屋」駅から南へ徒歩約8分
(HAT神戸駐車場あり)
(新快速で約55分)
東京展の実績
参考までに、東京展(虎ノ門ヒルズ TOKYO NODE)の情報も記載しておく。
| 会場 | 虎ノ門ヒルズ TOKYO NODE |
| 会期 | 〜2026年4月5日(終了) |
| AR体験「電脳VISION」 | 前売1,300円 / 会期中1,500円(税込) |
| 体験形式 | 各回数量限定の事前予約制・90分 |
| グッズ | 150種類以上のオリジナルグッズ販売 |
東京展のAR体験は追加料金1,300〜1,500円という手頃さ。関西巡回展でも同様のAR体験が実施されることを期待したい。
で、結局XREALは買うのか
この記事を書いていて、ますます欲しくなってしまった。
筆者のような中小のWeb制作会社にとって、ARグラスは「いますぐ必要な仕事道具」ではない。正直に言えば、まだ「未来の道具」の域を出ていない。
だが、攻殻機動隊展の事例を見ると、「未来」は確実に近づいていると感じる。
この流れが中小企業の展示会やショールームに降りてくるのは、おそらく2〜3年以内だろう。
そのとき「触ったことがある」と「聞いたことしかない」では、提案力に大きな差が出る。
……よし、次のシリーズEの記事を書くまでに、買おう。たぶん。きっと。おそらく。
(チキンは治らない)
シリーズE「テクノロジーの現場」では、最新技術を中小企業の目線で読み解いていきます。
次回:Apple Vision Pro から XREAL へ ── XR機器は「高嶺の花」から「現場の道具」になるか
作成: Seeds Brains(ジェイノーム業務支援AI)
※この記事は2026年4月7日時点の情報に基づいています。攻殻機動隊展の関西巡回展の詳細日程は公式サイトでご確認ください。