「いつ終わるんですか、これ。」
3月に入ってから、何人もの経営者からこの言葉を聞きました。取引先の社長から、商工会の集まりで、Zoomの画面越しに。みんな、同じことを聞いています。
ガソリンは190円を超えた。仕入れ値は上がり続ける。先が見えない。いったい、いつ元に戻るのか。
──正直に言います。「いつ」かは、わかりません。それは、トランプ大統領にも、イランの最高指導部にも、世界中のアナリストにもわかりません。
でも、「どうやって終わったか」なら、わかります。
過去50年、中東では何度も危機が起きました。そのたびに原油が暴騰し、株が暴落し、「世界が終わる」と騒がれました。そして──すべての危機は、終わりました。
このシリーズ最終回では、過去の6つの中東危機を振り返り、「危機がどう終わり、その後に何が起きたか」を掘り下げます。今を理解するために、歴史に学ぶ。それが、今日私たちにできる最も誠実なことだと思います。
50年分の「終わり方」を、並べてみる
まず、事実を並べます。過去の中東危機がそれぞれ「何日で終わり」「市場がどう回復したか」を。
数字が語る真実は、ニュースの論調よりもずっと雄弁です。
| 危機 | 原油の動き | 株価の底 | 回復までの期間 |
|---|---|---|---|
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第一次オイルショック
1973年
|
4倍 $3→$12 |
日経▼37% CPI +23%「狂乱物価」 |
約5年 |
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第二次オイルショック
1979年
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2.7倍 $13→$34 |
影響限定的 第一次の教訓で省エネ浸透 |
2〜3年 |
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湾岸戦争
1990-91年
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2.2倍 $17→$37 |
S&P +26%(91年通年) 開戦4ヶ月で史上最高値 |
約6ヶ月 |
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イラク戦争
2003年
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開戦で下落 短期決着を織り込み |
日経7,603→18,300 4年で2.4倍 |
約2ヶ月 |
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アラブの春
2011年
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$110超 リビア原油▼94% |
震災と重複 市場直撃は限定的 |
約1年 |
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サウジ施設攻撃
2019年
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+15%急騰 世界供給の5%が一瞬で消失 |
即回復 在庫で吸収、復旧声明 |
数日 |
この表から読み取れることが、3つあります。
① すべての危機は、終わった。──例外なく。第一次オイルショックですら、5年後には回復しています。
② 回復の速度は「学習」で加速している。──5年→3年→6ヶ月→2ヶ月→数日。人類は危機対応を学んできました。
③ 最も早く回復したのは「代替手段があった」ケース。──2019年のサウジ攻撃が数日で回復したのは、在庫と代替供給があったからです。
では──2026年の今回は、このどれに近いのか。
危機はどう終わるのか── 3つのパターン
歴史を見ると、中東危機の「終わり方」には明確なパターンがあります。
ここで重要なのは、3つ目のパターンです。
市場は「危機が終わった日」に回復するのではありません。「これ以上悪くならない」と”思った”日に回復するのです。
湾岸戦争のとき、S&P500は「多国籍軍が空爆を開始した日」に底を打ちました。戦争が終わった日ではない。始まった日です。なぜか? 不確実性が消えたからです。「いつ始まるんだろう」という恐怖が、「始まった。あとは終わるだけだ」に変わった。
イラク戦争も同じです。開戦月にダウは8.4%上昇しています。
つまり──最悪のニュースが流れている瞬間こそが、しばしば市場の底なのです。
2026年3月25日── 私たちは今、どこにいるのか
過去の「終わり方」を知った上で、今の状況を見てみましょう。
原油価格の推移を見てください。
ピーク時の$119から、3月25日時点で$87。27%の下落です。
過去のパターンに当てはめると、今の状況には3つのパターンすべての兆候が見えています。
🕊️ 外交解決の兆し: 15項目の停戦計画が提示され、パキスタンが仲介に乗り出している
⚔️ 軍事的優位の確立: 米軍がホルムズ海峡沿岸のイラン施設を破壊し、「脅威は低下した」と発表
📊 市場の織り込み: 停戦報道のたびに原油が急落(3/23にブレントが一時7%安)。市場は「終わり」を先取りし始めている
これは希望的観測ではありません。市場がデータで語っているのです。
それでも、「第一次オイルショック」を忘れてはいけない
楽観的な材料がある。それは事実です。
でも、ここで安易に「大丈夫ですよ」と言うつもりはありません。なぜなら、今回の危機には、過去にない要素が2つあるからです。
前例のない要素①:ホルムズ海峡の「実際の封鎖」
過去50年、ホルムズ海峡の封鎖は何度も「脅し」に使われてきました。イランは脅し、市場は一時的にパニックになり、結局封鎖はされなかった。
2026年は違います。実際に封鎖されている。4週間。
世界の原油輸送の約20%がこの海峡を通ります。日本の原油輸入の90%以上がここを経由しています。#01の記事で詳しく書きましたが、これは日本にとって「遠くの戦争」ではなく、エネルギーの命綱が物理的に切られた状態です。
日本の石油備蓄は254日分。この数字は心強い。しかし、LNG(液化天然ガス)のカタール・UAE産は備蓄が限られています。電力供給への影響が顕在化するまでの時間的猶予は、原油ほど長くありません。
前例のない要素②:アルゴリズムが支配する市場
#04の記事で詳述しましたが、2026年の市場では取引の70%以上をAIアルゴリズムが占めています。
1973年のオイルショック時、トレーダーは電話で注文を出していました。情報が伝わるまでに時間があり、その「間」で人間は考えることができた。
今は違います。ヘッドラインが流れた瞬間に、数千億円規模の売買が執行される。パニックが増幅される速度が、過去の危機とは桁違いです。裏を返せば、回復の速度も過去とは比較にならないかもしれません。市場が「終わった」と判断した瞬間に、猛烈な買い戻しが入る可能性がある。
つまり──悪いニュースも、良いニュースも、かつてないスピードで市場を動かすのが2026年です。
3つのシナリオ── 最悪を知り、最善に備える
過去の危機のパターンと、現在の状況を組み合わせると、3つのシナリオが見えてきます。
3月25日時点で、最も蓋然性が高いのはシナリオ①と②の間です。
停戦交渉が進行中であること。原油がピークから27%下落していること。米軍がホルムズ海峡の脅威を軍事的に低減させたこと。──これらは、シナリオ③(全面エスカレーション)の可能性が日々低下していることを示唆しています。
ただし──可能性が低いことと、ゼロであることは、まったく違います。1973年に誰が「原油が4倍になる」と予想したでしょうか。
「いつ終わるか」がわからない中で、何ができるか
ここまで読んでくださった方に、正直に言います。
「いつ終わるか」は、本当にわかりません。来週かもしれないし、半年後かもしれない。
でも、「いつ終わっても大丈夫な準備」はできます。過去の6つの危機を生き延びた企業には、共通点がありました。
使える支援策── 知っているだけで差がつく
最後に、現在使える具体的な支援策をまとめます。「知らなかった」で使わないのが、最ももったいないことです。
中小企業のBCP策定率はわずか13.6%(小規模事業者は7.9%)。エネルギー途絶シナリオを含むBCPの策定は、今回の危機をきっかけに真剣に検討すべきテーマです。
歴史は繰り返す。でも、同じようには繰り返さない
マーク・トウェインの言葉とされる有名なフレーズです(本当に彼が言ったかは定かではありませんが)。
過去50年の中東危機は、私たちにひとつの確信を与えてくれます。
すべての危機は、終わった。
第一次オイルショックで「世界が終わる」と言われた1973年。その後、日本は世界第2位の経済大国になりました。湾岸戦争後のS&P500は通年で+26%。イラク戦争後の日経平均は4年で2.4倍。
危機のさなかにいる人間には、出口が見えません。それは1973年の人々も、1990年の人々も、2003年の人々も同じでした。
でも──振り返れば、そこには必ず出口がありました。
でも「必ず終わる」ことは、
歴史が証明している。
生き延びていること。
そして、危機が終わった後に
走り出せる準備をしておくこと。
2026年の今回が「第一次オイルショック型」なのか「湾岸戦争型」なのか。それは、まだわかりません。
ただ、ひとつだけ確かなことがあります。
生き延びた者だけが、その後の成長の果実を手にする。
この6回のシリーズでお伝えしてきたのは、結局のところ、この一点に集約されます。
50年分の歴史から「終わり方」のパターンを学び、今を読み解きました
このシリーズを通じて、私たちが一貫してお伝えしたかったのは「怖がるな」ではありません。むしろ逆です。
正しく怖がれ。
データを見ろ。歴史を知れ。自分の状況を把握しろ。その上で、冷静に備えろ。
パニックに飲まれず、かといって目を背けず。危機の真ん中で、静かに立っていられること──それが、50年分の歴史が教えてくれた、最も大切な教訓です。
イラン情勢と日本経済の未来
経済学者・軍事アナリスト・中小企業診断士・個人投資家など
10の視点からこの危機を徹底討論します。
データ出典:
資源エネルギー庁、内閣府、Bloomberg、日本経済新聞、三井住友DSアセットマネジメント、マネックス証券、三菱総合研究所、中小企業庁、JETRO、週刊ダイヤモンド、野村総合研究所
※数値は2026年3月25日時点。原油価格・株価・為替は日々変動します。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。
作成: Seeds Brains(ジェイノーム業務支援AI)