原油100ドルで何が変わる?── あなたの会社の”見えないコスト”を可視化する

イラン情勢と相場 シリーズ #02

原油100ドルで何が変わる?
── あなたの会社の”見えないコスト”を可視化する
ガソリン、電気代、仕入れ値──。原油価格は「他人事」ではない。

前回の記事で、ホルムズ海峡の封鎖が世界経済に与える衝撃をお伝えしました。

「原油価格が上がっている」「日経平均が暴落した」──ニュースでは毎日そう報じられています。

でも、「それが自分の会社にいくらの影響があるのか」を具体的に答えられる経営者は、実はほとんどいません。

今回は、原油価格の上昇がどのルートで、どのくらいの金額であなたの会社のコストを押し上げるのかを「見える化」します。記事を読み終えた頃には、自社の”原油感応度”がわかるはずです。

原油価格の現在地

2026年3月13日時点で、WTI原油先物は99.31ドル。「100ドルの壁」に再び迫っています。

3月8日に一時110ドルを突破した後、急落して95ドル台まで下がりました。しかし、ホルムズ海峡の緊張が続く中、再び上昇に転じています。

2月下旬(攻撃前)
$72
平時の水準
3月8日(最高値)
$110
+52.8%の急騰
3月13日(現在)
$99
100ドルの壁に再接近

問題は、この水準が「一時的な急騰」なのか「新しい常態」なのかです。2008年のリーマンショック前夜(原油147ドル)、2022年のロシア・ウクライナ侵攻時(原油130ドル)──いずれも100ドル超が数ヶ月続きました。

そして、100ドルが続くと何が起きるか。それはじわじわと、しかし確実に、あなたの会社の損益計算書に表れます。

コスト波及の4つのルート

「原油が上がった」と「うちの利益が減った」の間には、4つのルートがあります。

原油価格 上昇

ルート① 燃料 → 物流 → 仕入れ値
原油

ガソリン・軽油

トラック配送料

あなたの仕入れ値↑

ルート② 原油 → LNG → 電気代
原油

LNG価格連動

電力会社の燃料費

あなたの電気代↑

ルート③ 石油化学 → 資材・包装
原油

ナフサ

プラスチック・紙・インク

あなたの資材費↑

ルート④ 原油高 → 円安 → 輸入品全般
原油

ドル需要増

円安(1ドル=159円)

輸入品すべて↑

この4つのルートが同時に押し寄せるのが、原油100ドル時代の怖さです。燃料費だけ見ていても全体像は掴めません。

業種別インパクト ── 3つの会社で試算する

「うちの業種だとどうなの?」──それが一番知りたいところでしょう。代表的な3業種で、原油価格別のコストインパクトを試算しました。

A社:運送業(トラック10台・従業員15名)
月間走行距離 約40,000km / 燃費 4km/L
項目 原油$72
(攻撃前)
原油$100
(現在)
原油$140
(悲観)
軽油単価(税込) 145円/L 175円/L 215円/L
月間燃料費 145万円 175万円 215万円
攻撃前との差額 ── +30万円/月 +70万円/月
年間増加額 ── +360万円 +840万円
A社 社長の声:「年間売上2億の会社で、燃料費だけで840万円増えたら利益が吹き飛ぶ。しかもこれは燃料費”だけ”の話。タイヤも部品も値上がりしている」

B社:飲食店(席数30・従業員8名)
月商350万円 / 食材原価率32% / 光熱費比率8%
項目 原油$72 原油$100 原油$140
月間光熱費 28万円 34万円 40万円
月間食材費 112万円 121万円 134万円
コスト増合計 ── +15万円/月 +34万円/月
年間増加額 ── +180万円 +408万円
B社 店長の声:「食材費の値上がりは仕入先から”来月から”と言われるのがつらい。メニュー価格を上げたいが、常連客が離れるのが怖くて踏み切れない」

C社:印刷会社(従業員15名)
月商800万円 / 用紙・インク原価率40%
項目 原油$72 原油$100 原油$140
月間資材費(紙・インク) 320万円 355万円 400万円
月間電気代 18万円 22万円 26万円
コスト増合計 ── +39万円/月 +88万円/月
年間増加額 ── +468万円 +1,056万円
C社 社長の声:「紙もインクも石油由来。用紙メーカーから4月の値上げ通知が来た。円安で輸入パルプも上がっている。ダブルパンチだ」

モデルケースで考えてみましょう

たとえば、年間売上1億円・利益率5%の会社があるとします。利益は500万円、コスト(原価+経費)は9,500万円です。

項目 原油高前 コスト10%増
売上 1億円 1億円(変わらず)
コスト 9,500万円 1億450万円
利益 500万円 ▲450万円(赤字)

この会社の場合、コストが10%上がると利益500万円が消えるだけでなく、450万円の赤字に転落します。もちろん、売上規模やコスト構造は会社ごとに異なりますが、利益率が低い会社ほど、原油高の影響は深刻になる──これは共通して言えることです。

“見えないコスト”の正体

ガソリン代、電気代、食材費──これらは請求書を見ればわかる「見えるコスト」です。

しかし原油高の本当の怖さは、数字として見えにくいコストにあります。

取引先からの値上げ通知
仕入先が原材料コストを転嫁してくる。1社だけなら吸収できても、5社同時に来ると対処不能になる。
従業員の通勤費
ガソリン代が上がれば通勤手当の見直しを求められる。交通費規程の改定は手間もコストもかかる。
省エネ投資への圧力
「LED照明に替えよう」「空調を更新しよう」──省エネ設備への切替は正しいが、初期投資が必要。コスト増の中での設備投資は痛い。
賃上げ圧力
物価が上がれば「給料上げてほしい」は当然の要求。人手不足の中、賃上げできなければ人が辞める。

これらの「見えないコスト」は、原油価格が上がってから3〜6ヶ月遅れで効いてきます。今は「まだ大丈夫」と感じていても、夏頃には一気に表面化する可能性があります。

歴史は繰り返す ── 2008年と2022年の教訓

原油が100ドルを超えた過去のケースから、何が学べるでしょうか。

2008年 ── 原油147ドルの衝撃

リーマンショック直前の2008年7月、WTI原油は史上最高値147ドルを記録。ガソリンはリッター185円に達し、運送業を中心に中小企業の倒産が相次ぎました。

東京商工リサーチによると、2008年の「原油高関連倒産」は年間762件。前年比3.2倍に急増しました。

その後:リーマンショックによる需要減で原油は30ドル台まで急落。「原油高→景気後退→需要減→原油暴落」というサイクルを描きました。

2022年 ── ロシア・ウクライナ侵攻と原油130ドル

2022年3月、ロシアのウクライナ侵攻で原油は130ドルに急騰。日本政府はガソリン補助金(燃料油価格激変緩和対策事業)を発動し、リッター175円に抑制しました。

この補助金がなければ、ガソリン価格はリッター210円超になっていたと試算されています。

その後:補助金は総額6兆円超を投じ、2024年末まで延長。原油は80ドル前後に落ち着きました。

⚠️ 今回が過去と決定的に違う点

2008年は投機的な価格高騰、2022年はロシアからの供給制限──いずれも代替ルートがありました。

しかし今回は、ホルムズ海峡という「世界石油の心臓部」そのものが止まっています。日本の原油輸入の65%が通過するこの海峡には、代替ルートがほぼ存在しません。石油備蓄254日分が尽きる前に事態が収束しなければ、過去のどのケースより深刻な影響が出る可能性があります。

自社の「原油感応度」── 5つのセルフチェック

あなたの会社は、原油価格の上昇にどのくらい影響を受けるか。以下の5項目でチェックしてみてください。

1
月間の燃料費は売上の何%か?
3%以上なら要注意。運送業は10%超も珍しくない。
2
電気代は前年同月比で何%増えたか?
10%以上増えていたら、原油高の影響がすでに出ている。
3
主要仕入先から値上げ通知は来ているか?
1社でも来ていれば、他社も追随する可能性が高い。
4
価格転嫁(値上げ)はできているか?
コスト増を吸収し続けると、数ヶ月後に資金繰りが詰まる。
5
3ヶ月分の運転資金(キャッシュ)はあるか?
原油高の影響が収まるまで耐えるには、最低3ヶ月分のキャッシュが必要。
3つ以上該当したら──
次回(第3回)の「為替と中小企業の攻防」は必読です。
円安がさらにコストを押し上げるメカニズムをお伝えします。

まとめ

原油価格は「中東のニュース」ではありません。あなたの会社の損益計算書に、今この瞬間も影響し続けています。

今回お伝えしたかったのは3つです。

① コストは4つのルートで波及する──燃料、電気、資材、円安。同時に来る。

② 利益率5%の会社はコスト10%増で赤字転落もありうる──「まだ大丈夫」は危険信号。

③ 今回は過去の原油高と違う──ホルムズ海峡の封鎖は代替ルートがない。

次回・第3回は「円安が止まらない ── 為替と中小企業の攻防」をお届けします。ルート④で触れた「円安」を深掘りし、ドル円159円台が中小企業にどう響くかを解説します。

データ出典:

Bloomberg、日本経済新聞、IEA(国際エネルギー機関)、経済産業省 資源エネルギー庁、東京商工リサーチ、日本総合研究所

※数値は2026年3月13日時点。業種別試算は一般的なモデルケースであり、個々の企業の状況により異なります。

作成: Seeds Brains(ジェイノーム業務支援AI)